妊娠高血圧腎症中等度リスクは発症予測能が低く、アスピリン投与が非特異的に推奨
Title:
Utility of the US Preventive Services Task Force for Preeclampsia Risk Assessment and Aspirin Prophylaxis
タイトル:
米国予防医療専門委員会(USPSTF)の妊娠高血圧腎症のリスク評価とアスピリン予防に対する有用性
著者:
Thomas F. McElrath, MD, PhD; Arun Jeyabalan, MD, MSCR; Arkady Khodursky, PhD; Alison B. Moe, BS; Manfred Lee, PhD, MPH; Maneesh Jain, PhD; Laura Goetzl, MD, MPH; Elizabeth F. Sutton, PhD; Pamela M. Simmons, DO; George R. Saade, MD; Antonio Saad, MD; Luis D. Pacheco, MD; Esther Park-Hwang, MD; Antonina I. Frolova,MD, PhD; Ebony B. Carter,MD, MPH; Ai-Ris Y. Collier, MD; Daniel G. Kiefer, MD; Vincenzo Berghella, MD; Rupsa C. Boelig, MD, MS; Michal A. Elovitz, MD; Cynthia Gyamfi-Bannerman, MD, MS; Joseph R. Biggio,MD, MS; Kara Rood, MD; William A. Grobman, MD, MBA; Carrie Haverty, MS, CGC; Morten Rasmussen, PhD
ジャーナル:
JAMA Netw Open. 2025 Jul 17;8(7):e2521792. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.21792.
KeyPoint
本研究は、米国予防医療専門委員会(USPSTF)の妊娠高血圧腎症リスク評価と低用量アスピリン予防の臨床的有用性を、検討した前向きコホートで検証したものです。対象の約89%がUSPSTF基準では「リスクあり(中等度または高リスク)」に分類され、特に中等度リスク群が全体の70%を占めています。しかし、実際にアスピリン予防が推奨されたのは全体の43%にとどまり、特に中等度リスク群では37%と低率でした。妊娠高血圧腎症の発症率は、低リスク3.0%、中等度10.5%、高リスク23.5%と段階的に上昇した一方で、中等度リスク因子の多くは単独では発症予測能が乏しく、発症リスクを有意に高めたのは、既往歴や慢性高血圧などの高リスク因子であり、中等度因子は臨床的に非特異的で予防対象の選別に十分寄与しないことが示されました。以上より、現行USPSTF基準1)は大多数をリスクありと判定するものの、中等度群における実用性は限定的であり、より個別化評価の必要性が示唆されました。この報告の内容はアスピリン予防投与の実際の臨床での使用感覚と一致している印象です。
【目的】 USPSTFガイドラインのどの特性がリスク状態を特定するのか、また、妊娠高血圧腎症のリスクとアスピリン予防投与推奨との関連を評価することを目的とした。
【設計、設定、および対象者】 本観察コホート研究は、2020年7月から2023年3月にかけて登録を行い、2024年10月から12月にデータ解析を実施した。登録は全米11ヶ所のセンター、または参加者への直接募集を通じて行われた。便宜的抽出により、妊娠22週未満の単胎妊娠である18歳以上の妊婦が選択された。
【曝露】 研究コーディネーターが診療録から臨床因子を抽出し、それらをUSPSTFの定義に従って低リスク、中等度リスク(出産歴、高年齢妊娠、人種、BMI)、および高リスク(慢性高血圧、妊娠高血圧腎症の既往、1型または2型糖尿病、腎疾患、自己免疫疾患)に層別化された。
【主要な評価項目および指標】 アスピリン予防投与の推奨有無、USPSTFが定義する中等度または高リスク因子の有無、および妊娠高血圧腎症の診断に関するデータを収集した。効果サイズと相対リスク(RR)は、リスク層ごとに算出された。
【結果】 参加者5,684名(年齢中央値 30.9[26.4-34.6]歳、アジア系267名[4.7%]、黒人1191名[21.0%]、ヒスパニック系990名[17.4%]、白人2764名[48.6%]、その他の人種または民族472名[8.3%])のうち、5046名(88.8%)が妊娠高血圧腎症のリスク上昇群(中等度リスク3996名[70.3%]、高リスク1050名[18.5%])と判定された。全体で2,438名(43.1%)がアスピリン予防投与の推奨を受けた。妊娠高血圧腎症の全体の発症率は12.1%であり、USPSTFのカテゴリー別では低リスク群で3.0%(638名中19名)、中リスク群で10.5%(3996名中419名)、高リスク群で23.5%(1050名中247名)であった。中リスク因子を2つ以上有するが高リスク因子を有さない参加者の間では、初産が妊娠高血圧腎症リスクの有意な上昇と関連していたが(RR1.48、95%CI 1.35-1.62、P< .001)、高年妊娠はリスクの低下と関連していた(RR 0.79、95%CI 0.65-0.96、P= .02)。肥満との関連はわずかであったが(RR、1.11; 95%CI、1.01-1.22; P= .048)、黒人との関連はなかった(RR、0.95; 95%CI、0.80-1.14; P = .63)。高リスク因子を有する1044名のうち、856名(82.0%)がアスピリン予防投与を推奨され、低リスク群の634名のうち、538名(85.9%)は推奨されなかった。一方で、中等度リスク因子を1つ有する群での推奨率は23.8%、2つ以上有する群では50.4%に留まった。
【結論および関連性】 5,684件の単胎妊娠を対象としたこの前向きコホート研究において、母集団の89%がUSPSTFの基準により妊娠高血圧腎症のリスク上昇(中等度または高リスク)と判定された。これらの知見は、高リスク因子がない場合、中等度リスク因子のみでは妊娠高血圧腎症の発症リスクを予測する価値が低いか、あるいは無いことを示唆しており、結果として中等度リスクカテゴリーにおけるアスピリン予防投与の推奨が、非特異的なものになっていることを示している。
【参考文献】
1.US Preventive Services Task Force. Aspirin Use to Prevent Preeclampsia and Related Morbidity and Mortality: US Preventive Services Task Force Recommendation Statement. JAMA. 2021;326(8):766-772.
(文責:菊地 範彦)