文献紹介
Featured Research

慢性腎臓病合併妊娠では、加重型妊娠高血圧腎症をいかに予防するかが大事

Title:

The effect of preeclampsia on long-term kidney function among pregnant women with chronic kidney disease

タイトル:

慢性腎臓病合併妊娠で妊娠高血圧腎症が長期的な腎機能に与える影響

著者:

Li Z, Chen S, Tan Y, Lv J, Zhao M, Chen Q, He Y.

ジャーナル:

Nephrol Dial Transplant,2025,40,393–404 https://doi.org/10.1093/ndt/gfae172

KeyPoint

慢性腎臓病(CKD)は妊娠高血圧腎症(PE)のハイリスク因子である。これまでにCKDを有する女性で妊娠が腎機能に与える長期的影響を検討した研究がいくつか存在し,妊娠そのものはCKD患者の腎機能低下を加速させることが示されている。しかし,PEが長期的な腎機能低下あるいは末期腎不全のリスクを増大させるかどうかについては,いまだ議論されている。
この研究では、妊娠そのものがCKD女性の腎機能低下を加速させるだけでなく、PEを発症すると腎機能低下をさらに加速させうることがわかった。特に妊娠中に早発型PEを発症した場合,遅発PEやPEを発症しなかった女性と比較して,腎機能低下の進行がより速い。
このことから、CKD合併妊娠ではPE発症リスクを軽減させるために低用量アスピリンの使用が腎機能低下の抑制にも有益である可能性がある。また、妊娠中にPEを発症したCKD女性では,CKDの進行を遅らせるために,出産後も綿密なフォローアップと適切な治療を行うべきである。
【目的】慢性腎臓病(CKD)合併妊娠で、加重型妊娠高血圧腎症(sPE)が長期的な腎機能低下や末期腎不全のリスク上昇と関連するかどうかは、これまで明らかにされていない。本研究の目的は、CKD合併妊娠でsPEと腎機能低下との関連を検討することである。

【方法】後ろ向きコホート研究であり、2009年1月1日から2022年5月31日の期間で、出産後少なくとも1年間フォローされた初産婦のCKD合併妊娠で、PEを合併した103例と、PEを合併していない103例の診療情報を解析した。CKD患者の長期的な腎機能低下率または末期腎不全に対するPEの影響を評価するため、ロバスト・コックス回帰分析を行った。Kaplan–Meier曲線を用いて、ログランク検定により異なるサブグループ間で腎生存率を比較した。

【結果】フォローアップ期間中に、eGFR30%未満に低下もしくは末期腎不全へ進行した例は、PEを合併したCKD患者で44例(42.72%)、PE非合併例では20例(19.42%)であったPEを合併しなかった例と比較して、PE合併例ではeGFRの低下がより顕著であった[98.43(79.48~116.47)から81.32(41.20~102.97)mL/min/1.73 m² への低下 vs 99.43(79.00~118.50)から89.44(63.69~105.30)mL/min/1.73 m² への低下;P = 0.034]。eGFR低下率もPE合併例でより大きく(17.38% vs 10.05%,P < 0.05)、多変量解析では、早発型PE合併例及び遅発型PE合併例のいずれもeGFR30未満の低下または末期腎不全進行のリスク因子であることが示された。(早発型PE合併例:HR=2.61,95%CI1.32–5.16,P = 0.006、 遅発型PE合併例:HR = 2.54,95% CI 1.34–4.83,P = 0.004)

【結論】CKD合併妊娠では、PEが長期的な腎機能低下あるいは末期腎不全のリスク上昇と関連しており、とくに早発型PEを有する例でその影響が大きかった。

【参考文献】
1.Zhang JJ, Ma XX, Hao L et al. A systematic review and meta-analysis of outcomes of pregnancy in CKD and CKD outcomes in pregnancy. Clin J Am Soc Nephrol 2015;10:1964–78. https://doi.org/10.2215/CJN.09250914

2.Barrett PM,Mccarthy FP,Kublickiene K et al. Adverse pregnancy outcomes and long-term maternal kidney disease: a systematic review and meta-analysis. JAMA Netw Open 2020;3:e1920964. https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2019.20964

(文責:川端 伊久乃)