文献紹介
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日本人の関節リウマチ罹患女性の分娩率の評価ー保険請求データを用いた研究ー

Title:

Five-Year Delivery Rate and Time to Delivery Among Women With and Without Rheumatoid Arthritis: A Real-World Analysis Using a Nationwide Claims Database in Japan

タイトル:

関節リウマチ(RA)女性と非RA女性における5年間の分娩率と分娩までの時間:日本全国規模のレセプトデータを用いたリアルワールド分析

著者:

Ohtsu H, Fujioka I, Goto M, Takai C, Yonemoto N, Sase K, Murashima A

ジャーナル:

Int J Rheum Dis. 2025;28(6):e70296. doi: 10.1111/1756-185X.70296 (Open Access)

KeyPoint

RA女性は妊孕性が低いことがすでに報告されていますが1)-3)生物学的製剤が広く用いられる近年においては、疾患活動性がコントロールされるようになり妊孕性の改善が期待されます。しかし近年のRA女性の妊孕性に関する報告はありません。本研究では日本の保険請求データベースを用いて、5年間の追跡期間におけるRAおよび非RA女性の分娩率と分娩までの期間が調査されました。RA女性は非RA女性に比べ5年間の分娩率が低く、分娩までの期間(Time to Delivery: TTD)が有意に長いことが分かりました。また、メトトレキサート(MTX)使用を伴うRA群ではさらに延長していました。本研究ではMTX使用を“フォロー中のいずれかの時点での処方”で定義しています。本研究の限界点として、著者らも述べているように、妊娠意図・避妊・パートナーの状況、服薬中止や切替えの実際、疾患活動性などの交絡因子を把握していないことやアウトカムが出産イベントに限定され、流産・死産は評価できていない点があげられます。これらを踏まえると、TTD延長をMTX自体の因果効果と断ずることはできず、安全配慮に基づく計画的な妊娠時期の調整や重症度の違いが影響した可能性を考慮すべきです。本研究の結果より、生物学的製剤が普及した今日においてもRA女性の妊孕性は低いことが示唆されました。妊娠可能年齢のRA女性の診療では、妊娠を見据えたRA治療(休薬・治療薬の変更の計画)と産科との早期連携が重要であり、将来の妊娠希望を前提としたShared decision makingを支える有用な知見といえます。
【目的】RA女性の妊孕性について、Time to Delivery(TTD)という新しい指標を用いて非RA女性と比較し評価すること。

【方法】日本の保険請求データ(JMDC)を用い、25-38歳の女性を対象とした。診断名とDMARDs処方からRAを定義し、母親と児が紐づけされた年月を分娩としアウトカム定義した。保険加入後1年から5年間の追跡によりRA女性および非RA女性の分娩率およびTTDを調査した。年齢および保険加入年で1:5のプロペンシティ(PS)マッチングを行った。解析はKaplan–Meier 法、ログランク検定、Cox モデルを用い、サブ解析としてRA女性の中でMTX 使用の有無により解析を行った。

【結果】PSマッチ後でRA 262 例、非RA 1,310 例が抽出された。分娩率はRA 19.0% vs 非RA 28.2%であり、TTDはRAで有意に延長した(HR 0.62 [0.46–0.84])。サブ解析ではTTDの平均は MTX あり 38.1 か月、MTX なし 33.7 か月、非RA 32.2 か月であり、RA 両群とも非RAより分娩率は低下した。

【結論】RA女性では分娩率が低下しTTDが延長していた。妊娠希望を考慮したリプロダクティブ・ヘルス支援が必要であり、妊娠の希望のある場合はリウマチ科と産婦人科の連携が重要である。TTD はリアルワールドデータで把握可能な妊孕性の指標として有用であったが、本人の妊娠希望や疾患活動性等の交絡要因に注意が必要であり、今後さらなる前向き研究が今後求められる。

【参考文献】
1. M. Wallenius, J. F. Skomsvoll, L. M. Irgens et al. Fertility in Women With Chronic Inflammatory Arthritides. Rheumatology (Oxford). 2011;50(6):1162–1167.

2. J. Brouwer, J. M. Hazes, J. S. Laven, and R. J. Dolhain. Fertility in Women With Rheumatoid Arthritis: Influence of Disease Activity and Medication. Ann Rheum Dis. 2015;74(10):1836–1841.

3. D. Jawaheer, J. L. Zhu, E. A. Nohr, and J. Olsen. Time to Pregnancy Among Women With Rheumatoid Arthritis. Arthritis Rheum. 2011;63(6):1517–1521.

(文責:平松 ゆり)