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母親の妊娠高血圧腎症が、児の腎臓病リスクを高める

Title:

A nationwide register-based cohort study examined the association between preeclampsia in mothers and the risk of kidney disease in their offspring

タイトル:

母親の妊娠高血圧腎症と児の腎臓病リスクとの関連性の検討

著者:

Lihme I, Basit S, Lihme F, Damholt MB, Hjorth S, Nohr EA, Boyd HA.

ジャーナル:

Kidney Int . 2025;108(2):283-292. doi: 10.1016/j.kint.2025.04.017.

KeyPoint

妊娠高血圧腎症(preeclampsia: PE)は古くからある疾患で、かつては一過性の妊娠合併症と考えられ、出産と共に治ると考えられていました。しかし、今は長期にわたる全身合併症であることがわかっており、母体だけでなく児にとっても、将来、心血管疾患、高血圧症、慢性腎臓病を発症するリスクであると考えられています。ノルウェーからの報告では、PEを発症した妊婦は末期腎不全に至るリスクが約5倍に上昇し、またPE2回、3回と増えると、さらにリスクが高まることも指摘されています1

PEの女性は、早産(妊娠37週未満)で出産することが多く、早産は児の腎臓病リスクの上昇と関連していますが、PEが単独で腎臓病リスクと関連しているかどうかはわかっていません。本論文では、デンマークで, 正期産で生まれた児を母親のPEの有無で分け、比較した結果、PEを発症した母親から生まれた児は、将来腎臓病を発症するリスクが高いだけでなく、慢性腎臓病や糖尿病性腎臓病との関連は、25歳以降に、より顕著になると報告しています。

CKDを持つ患者にとって、PEの既往や家族歴があること自体がPEの危険因子でもあり、PEをはじめとした合併症妊娠は、次世代のCKDや合併症妊娠の発症リスクを高めると考えられています2PEが早産とは異なる機序で、どのように児の腎機能に影響するか、またその治療法について、さらなる検討が期待されています。
【目的】妊娠高血圧症候群の女性は、早産(妊娠37週未満)で出産することが多い。早産は児の腎臓病リスクの上昇と関連しているが、妊娠高血圧症候群が単独で腎臓病リスクと関連しているかどうかは不明である。本研究では、早産を考慮した上で、母親の妊娠高血圧症候群と児の腎臓病との関連性を調査するため、登録コホート研究を実施した。

【方法】Cox回帰を用いて、母親の妊娠高血圧症候群に曝露された児と曝露されかった児における腎疾患発生率(全体およびサブタイプ別)を比較し、ハザード比(HR)を推定した。

【結果】本研究には、1978年から2017年の間にデンマークで生まれた2,288,589人が含まれ、そのうち63,191人が妊娠高血圧症候群に曝露されていた。 43,137,193人年の追跡調査期間中に、37,782人が腎臓病を発症した。妊娠高血圧症候群を発症し正期産(妊娠37週以上)で生まれた子は、妊娠高血圧症候群を呈していない正期産の子と比較して、乳児期に腎臓病を発症するリスクが26%高く(HR 1.2695%信頼区間[1.09-1.46])、1歳以降は急性腎臓病を除くすべての腎臓病サブタイプの発症率も上昇した(HR範囲1.11-1.88)。正期産妊娠高血圧症候群と児の慢性腎臓病、詳細不明の腎臓病、糖尿病性腎臓病との関連は、児が25歳以降になってから最も強くなった(それぞれHR 1.361.702.85)。一方で、早産に伴う妊娠高血圧症候群への曝露が、生後1年以降の子の腎疾患発症率の上昇と関連しているというエビデンスはほとんどなかった(1歳未満:1.41[1.05-1.90]1歳以上:0.94[0.79-1.11])。

【結論】母体の正期産妊娠高血圧症候群と児の腎疾患との関連性は、早産との関連性を説明しうる既知のメカニズムとは異なる隠れたメカニズムがあることを示唆している。

【参考文献】
1. Vikse BE et.al. Preeclampsia and the risk of end-stage renal disease. N Engl J Med. 2008; 359: 800-9.
2. Piccoli, GB et al. The pathogenesis of pre-eclampsia in kidney donors. Nat Rev Nephrol. 2023; 19:7-8.

(文責:島本 真実子)