文献紹介
Featured Research

自己免疫疾患の種類により妊娠中の生物学的製剤の使用方法は異なるのか?

Title:

Use of biologics during pregnancy among patients with autoimmune conditions

タイトル:

自己免疫疾患患者における妊娠中の生物学的製剤の使用状況

著者:

Ewig CLY, Wang Y, Smolinski NE, Thai TN, Rasmussen SA, Winterstein AG.

ジャーナル:

JAMA Netw Open. 2025;8(5):e2510504. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2025.10504.

KeyPoint

自己免疫疾患は妊娠可能年齢の女性に好発します。出産可能年齢である女性の2%、妊娠女性の4%が自己免疫疾患を持つと推定されています1), 2)。生物学的製剤の開発に伴い、自己免疫疾患の治療が進歩した今、自己免疫疾患の疾患活動をコントロールしながら、妊娠・出産・授乳・育児を支援することが求められています。自己免疫疾患合併妊娠における生物学的製剤の継続的な使用は、「薬剤による潜在的な胎児奇形誘発リスク」だけでなく、「疾患ごとの疾患活動」を共に検討することが必要です。自己免疫疾患とその罹患臓器の特徴を考えながら、妊娠・授乳中の治療方針を検討します。一方で、罹患臓器別の専門家が、本学会などを通じて、各専門分野の知恵を活かしながら、専門分野の枠を超えた学際的・体系的な活動を行うことができれば、世界と日本の医療の質は飛躍的に向上するはずです。この点で、疾患横断的な観点に基づく本研究の視点は貴重と考えられたため、ここに紹介します。
【目的】本研究の目的は、自己免疫疾患合併妊娠において、自己免疫疾患ごとの生物学的製剤の使用パターンを明らかにすることである。

【方法】北米 (2011年1月1日〜2022年12月31日) の医事請求データ (administrative claim database) であるMerative MarketScan Research Databasesを使い、妊娠前6か月に生物学的製剤を使用した自己免疫疾患合併妊娠 (16歳〜55歳)(クローン病、潰瘍性大腸炎、乾癬または乾癬性関節炎、関節リウマチ、強直性脊椎炎、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症) を対象に解析した。

【結果】6131人 (median 32歳, IQR 29-36歳) のうち、4393人 (71.6%; 95% CI, 70.5%-72.8%) が妊娠中に少なくとも一回、生物学的製剤を使用していた。生児を得た妊娠では、第1三半期に68.6% (95% CI, 67.2%-70.0%)、第2三半期に58.8% (95% CI, 57.3%-60.3%)、第3三半期に48.6% (95% CI, 47.1%-50.1%)、出産後に77.1% (95% CI, 75.8%-78.3%) の患者が生物学的製剤を使用していた。関節リウマチに比較して、クローン病 (オッズ比 [OR] 7.88; 95% CI,5.93-10.47) と潰瘍性大腸炎 (OR 5.35; 95% CI, 3.73-7.66) を持つ患者では生物学的製剤の使用頻度が高く、乾癬もしくは乾癬性関節炎 (OR 0.65; 95% CI, 0.52-0.80) を持つ患者では低かった。

【結論】自己免疫疾患合併妊娠では、妊娠期間中に生物学的製剤の使用率が経時的に低下し、分娩後に回復した。自己免疫疾患の違いによる生物学的製剤の使用頻度の差異から、疾患ごとのリスク・ベネフィット評価の必要があると考えられた。

【参考文献】
1)Lim JR, Nielsen TC, Dale RC, et al. Prevalence of autoimmune conditions in pregnant women in a tertiary maternity hospital: A cross-sectional survey and maternity database review. Obstet Med 2021;14:158-163.

2)Nielsen TC, Nassar N, Harrison C, et al. Prevalence of autoimmune disease among pregnant women and women of reproductive age in New South Wales, Australia: a population-based study. J Matern Fetal Neonatal Med 2022;35:3229-3237.

(文責:河内 泉)