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思春期の食事パターンは、その後の妊娠において、妊娠高血圧症候群や早産のリスクとなるのか?

Title:

Preconception diet in adolescence and its association with hypertensive disorders of pregnancy and preterm birth. Results from the HUNT study

タイトル:

思春期における妊娠前の食事と妊娠高血圧症候群や早産との関係. HUNT研究の結果から

著者:

Wills AK, Hillesund ER, van Lippevelde W, Barker M, Nordgård F, CecilieØverby VN.

ジャーナル:

Br J Nut. 2024; 132(1): 91-98. doi: 10.1017/S0007114524000746.

KeyPoint

プレコンセプションケアの広がりとともに、妊娠前の女性の健康に関わる機会が多くなってきたと思います。ところが実際には「妊娠前」という言葉にはかなり奥行きがあり、すぐにでも妊娠したいという女性から、妊娠は全く視野にない女性まで様々な対象を包括しています。将来の妊娠に備えるには、ライフステージに合わせた対応が欠かせませんが、食事については、中長期的な介入が必要です。今回は思春期の食習慣や食事内容が、将来の妊娠に影響するかもしれないことを示したノルウェーの調査結果を共有します。本邦では、朝食を毎日食べる習慣のある小中学生は80%程度にとどまり1)、食物繊維の摂取量も、穀類・芋類・豆類などの摂取量低下に伴って減少しています2)。長期的な視点で栄養教育や介入に取り組むことで、将来の母子の健康につながることが期待できます。
【方法】ノルウェーのヌール・トロンデラーグ郡における大規模な人口ベースの健康調査「トロンデラーグ健康調査(The Trøndelag Health Study; HUNT)」の思春期部分Young-HUNT11995年から1997年に行われた調査と、その後の妊娠記録を追跡した。Young-HUNT1にはトロンデラーグ郡の全66校、8,980/10,202(88%)が参加しており、今回の調査では、食事評価時が1319歳で、その後単胎妊娠をした女性を対象とした。
食事アンケートは、学校の授業時間中に児童が記入した。また、トレーニングを受けた看護師が学校を訪問し、体格の測定を行った。Young-HUNT1研究における食事と食事の変数は、信頼性と妥当性が認められたHSBC(Health Behavior of School-aged Children)研究で評価されたものに基づいている。
妊娠転帰に関する情報は、Norwegian Medical Birth Registryの記録と連結することで抽出し、2017年までの全出生が含まれた。ノルウェーでは妊娠16週以降(2002年以降は12週以降)の全ての生存出産と死産が、標準化された書式で報告されるシステムとなっている。同時に、出産前後の母親の健康に関する情報や、慢性疾患の有無、妊娠・出産時合併症などのデータも収集されている。
思春期の食事指数(健康、不健康、果物と野菜、食物繊維)や食事習慣(毎日の朝食、毎日の昼食、毎日の夕食)が、妊娠高血圧症候群(HDP)、妊娠高血圧症(GH)preeclampsia/eclampsia37週未満早産と関連するか調査した。

【結果】Young-HUNT1に参加した女性4,463人のうち、未分娩または記録連結時に産科記録がない症例などを除外し3,611人(7,851妊娠)を調査した。
1.思春期の食事曝露と潜在的交絡因子との関連:
思春期に健康的な食生活を送っていた人(healthy diet index >35)は高等教育を受ける可能性が高く、喫煙、アルコール、たばこの使用経験が少ない傾向にあった。また、初回妊娠での平均年齢が26.4歳と他2(healthy diet index<24, 24-25の群)よりも若干高く、妊娠時に喫煙している可能性も低かった。同様の傾向は思春期に毎日昼食を食べていたと回答した群にも見られた。

2.食習慣と食事内容の関係
思春期に規則正しい食習慣がある人は、健康的な食事、果物・野菜、食物繊維に関する指標も高い傾向にあった。

3.思春期の食事と妊娠転帰の関連:
思春期の食物繊維摂取とpreeclampsiaには弱い関連が示され、食物繊維に関する指標が高いほど、初回妊娠でのpreeclampsia発症リスクが16%低下した。
この結果は初回妊娠に限らずどの妊娠においても同様にリスクの低下がみられた。
食習慣がHDPや早産の転帰に及ぼす影響を支持する証拠はほとんどなかったが、年齢層別解析を行うと、思春期早期(13-15歳)の昼食摂取習慣が、のちの高血圧*リスクの低下と関連するかもしれないことが示され、利用可能なすべてのデータを用いた感度分析では、朝食摂取習慣のある13-15歳の女性は妊娠中の高血圧*のリスクも低い傾向が見られた。(*文脈からGHと推察)

【考察】
1.思春期に食物繊維の摂取量が高いと報告した女性において、初回妊娠時のpreeclampsiaのリスクがやや低いことが判明したが、この結果は欠損データによるバイアスを検証する感度分析では裏付けられなかった。
2.食習慣は年齢依存的に高血圧との関連を示した。13-15歳の時に規則的な食事(特に朝食と昼食)を摂取していた女性では、思春期中・後期に同じような食事をとっていた人に比べてGHのリスクが低いことが明らかになった。以上より、13-15歳の食物繊維の摂取量や毎日朝食・昼食をとる規則正しい食習慣は、その後の妊娠でのpreeclampsiaや妊娠高血圧症のリスクを低減する可能性がある。

【結論】思春期における食事内容と食習慣がその後の妊娠高血圧症候群と関連を検討した初めての研究である。生涯を通じた健康的な食事の重要性は広く認知されているが、妊娠母体の健康と関連する適切な食事介入時期についての理解は不十分であり、今後も検討が必要である。

【参考文献】
1)国立教育政策研究所. 令和6年度 全国学力・学習状況調査 報告書【質問調査】.https://www.nier.go.jp/24chousakekkahoukoku/report/data/24qn_02.pd
2) Nakaji S, Sugawara K, Saito D, et al. Eur J Nutr. 2022; 41(5): 222-7.

(文責:三島 就子)