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妊娠悪阻が治療できる時代が来るかもしれません!

Title:

GDF15 linked to maternal risk of nausea and vomiting during pregnancy.

タイトル:

GDF15は妊娠中の母体の吐き気や嘔吐のリスクと関連している

著者:

Fejzo M, Rocha N, Cimino I, et al.

ジャーナル:

Nature. 2024;625(7996):760-767. doi: 10.1038/s41586-023-06921-9.

KeyPoint

胎児由来のGDF15Growth Differentiation Factor 15)と妊娠悪阻の発症リスクの間に因果関係が存在している可能性を示唆されました。

妊娠前のGDF15が低い妊婦ほど、胎児由来のGDF15による上昇で妊娠悪阻が酷くなること、GDF15値が慢性的に高いβサラセミアの妊婦では、悪阻が軽くなる傾向があることが示されています。またGDF15は抗がん剤の副作用として食欲不振にも関与している可能性が指摘され、この分野では世界的には抗GDF-15抗体(ponsegromab)の臨床治験も進んでいます。

いつか、妊婦さんが妊娠悪阻の苦しみから解放される日が来るかもしれません!
【目的】GDF15(Growth Differentiation Factor 15)は脳幹に作用するホルモンで、妊娠中の吐き気や嘔吐、特に最も重篤な妊娠悪阻に関係していると考えられているが、その機序の完全な解明はされていない。本研究では、胎児のGDF15産生と母体のGDF15 に対する感受性の両方が妊娠悪阻のリスクに大きく寄与していることを報告する。

【方法・結果】母体血中のGDF15値が高いことが、妊娠中の嘔吐や妊娠悪阻と関連していることを確認した。質量分析法を使用して天然標識GDF15変異体を検出したところ、母体血漿中のGDF15の大部分が胎児胎盤に由来することが判明した。稀な遺伝的バリアントと一般的な遺伝的バリアントの保因者を解析した結果、非妊娠時のGDF15値が低いと妊娠悪阻を発症するリスクが高まることが判明した。逆に、GDF15値が慢性的に高い状態である β-サラセミアの女性は、妊娠中の吐き気と嘔吐のレベルが非常に低いと報告されている。マウスの実験では、GDF15のボーラス投与に対する急性食物摂取反応は、投与以前の循環GDF15レベルによって双方向に影響され、このシステムは脱感作の影響を受けやすいことが示唆された。

【結論】本研究結果は、胎児由来のGDF15が妊娠悪阻の原因となる可能性を裏付けており、母親の感受性は少なくとも部分的には妊娠前のGDF15への曝露によって決定され、重症度に大きな影響を与える。また、妊娠悪阻の治療と予防に対する発生機序に基づくアプローチの可能性を示唆している。

【参考文献】

1)Fejzo M, Rocha N, Cimino I, et al. Fetally-encoded GDF15 and maternal GDF15 sensitivity are major determinants of nausea and vomiting in human pregnancy. bioRxiv

[Preprint]. 2023 Jun 4:2023.06.02.542661. doi: 10.1101/2023.06.02.542661.

(文責:菊地 範彦)