妊娠合併症を有した女性は40年経っても死亡率が高い
Title:
Adverse Pregnancy Outcomes and Long-term Mortality in Women
タイトル:
妊娠合併症と女性の長期死亡率
著者:
Crump C, Sundquist J, Sundquist K
ジャーナル:
JAMA Internal Medicine 2024;184(6):631-640. doi:10.1001/jamainternmed.2024.0276
KeyPoint
妊娠糖尿病・妊娠高血圧腎症などの妊娠合併症は、以前は分娩とともに軽快しフォローアップは必要ないとされてきましたが、近年その考え方は大きく変わり、将来的な女性の健康管理を必要とすることが認識されるようになってきました。こうした妊娠の影響は、出産後いつまで続くのでしょうか?本研究はスウェーデンの国家的レジストリーのデータを用いたコホート研究で、出産後40年たっても、死亡リスクの増加と妊娠合併症が関連していたということを報告しました。日本人でのデータではないためこの結果の再現性については注意が必要ですが、妊娠を契機とした女性の健康管理について、本学会でもさらに普及していく必要性があることを再認識させる報告だと思われます。
【目的】早産や妊娠高血圧腎症を発症した女性は、将来、心循環器系や代謝性疾患の発症リスクが高くなることが知られているが、長期的な死亡リスクについてはほとんど知られてない。大規模な母集団ベースのコホートにおける5つの主要な妊娠合併症(早産、small for gestatinal age(SFD)、妊娠高血圧腎症、他の高血圧合併症、妊娠糖尿病)に関連する長期的死亡リスクを特定する。
【方法】スウェーデンの全国コホート研究。1973年以降のほぼすべての分娩の妊娠中・分娩時の情報を含むthe Swedish Medical Birth Registerを使用し、1973年から2015年の間に単胎妊娠・出産を行なった女性で、妊娠中及び出生児体重に関する情報を持つ2,195,667人を研究対象とした。このデータは2023年3月から9月にかけて分析された。
主要転帰は2018年12月31日までの全死因および原因別死亡率。COX回帰分析を用いて、特定の妊娠合併症に関連する死亡率のハザード比を算出し、他の母体因子を調整し、Cosibling解析により共有家族的要因(遺伝的または環境的因子)の影響を評価した。
【結果】年間5600万人(中央値(四分位範囲)年齢52歳(42-61歳)の追跡調査期間において、88,055人(4%)の女性が死亡した(死亡時の中央値(四分位範囲)年齢59歳(50-67歳)。5つのすべての妊娠合併症が、独立して死亡率の増加と関連していた。追跡期間全体(分娩後46年)で、特定の有害妊娠合併症に関連する前死因死亡の調整ハザード比は以下の通りであった
・妊娠糖尿病 1.52(95%CI 1.46-1.58),
・早産 1.41(95%CI 1.37-1.44)
・SFD児出産 1.30(95%CI 1.28-1.32),
・その他高血圧疾患1.27(95%CI 1.19-1.37)
・妊娠高血圧腎症 1.13(95%CI 1.10-1.16)
すべてのハザード比は出産後30年から46年経過しても、なお有意に上昇したままであった。また、複数の合併症を有した場合はさらにリスクが高くなった。Cosibling解析で家族に共有する因子を調整した後でも、これらの効果の大きさは部分的(0-45%)しか減少しなかった。心血管及び呼吸器疾患、糖尿病などいくつかの重要な死亡原因が特定された。
【結論】この大規模なコホート研究では、5つの主要な妊娠合併症のいずれかを経験した女性は、40年以上経過した後も死亡率リスクが上昇したままであることが示された。こうした妊娠合併症は、早死の長期リスク要因として認識されるべきであり、早期死亡に関連する慢性疾患の発症を適切に発見し治療するために、出産後早期からの予防措置と長期にわたる経過観察を必要としている。
【参考文献】
【方法】スウェーデンの全国コホート研究。1973年以降のほぼすべての分娩の妊娠中・分娩時の情報を含むthe Swedish Medical Birth Registerを使用し、1973年から2015年の間に単胎妊娠・出産を行なった女性で、妊娠中及び出生児体重に関する情報を持つ2,195,667人を研究対象とした。このデータは2023年3月から9月にかけて分析された。
主要転帰は2018年12月31日までの全死因および原因別死亡率。COX回帰分析を用いて、特定の妊娠合併症に関連する死亡率のハザード比を算出し、他の母体因子を調整し、Cosibling解析により共有家族的要因(遺伝的または環境的因子)の影響を評価した。
【結果】年間5600万人(中央値(四分位範囲)年齢52歳(42-61歳)の追跡調査期間において、88,055人(4%)の女性が死亡した(死亡時の中央値(四分位範囲)年齢59歳(50-67歳)。5つのすべての妊娠合併症が、独立して死亡率の増加と関連していた。追跡期間全体(分娩後46年)で、特定の有害妊娠合併症に関連する前死因死亡の調整ハザード比は以下の通りであった
・妊娠糖尿病 1.52(95%CI 1.46-1.58),
・早産 1.41(95%CI 1.37-1.44)
・SFD児出産 1.30(95%CI 1.28-1.32),
・その他高血圧疾患1.27(95%CI 1.19-1.37)
・妊娠高血圧腎症 1.13(95%CI 1.10-1.16)
すべてのハザード比は出産後30年から46年経過しても、なお有意に上昇したままであった。また、複数の合併症を有した場合はさらにリスクが高くなった。Cosibling解析で家族に共有する因子を調整した後でも、これらの効果の大きさは部分的(0-45%)しか減少しなかった。心血管及び呼吸器疾患、糖尿病などいくつかの重要な死亡原因が特定された。
【結論】この大規模なコホート研究では、5つの主要な妊娠合併症のいずれかを経験した女性は、40年以上経過した後も死亡率リスクが上昇したままであることが示された。こうした妊娠合併症は、早死の長期リスク要因として認識されるべきであり、早期死亡に関連する慢性疾患の発症を適切に発見し治療するために、出産後早期からの予防措置と長期にわたる経過観察を必要としている。
【参考文献】
- SøndergaardMM,HlatkyMA,StefanickML,etal. Association of adverse pregnancy outcomes with risk of atherosclerotic cardiovascular disease in postmenopausal women. JAMA Cardiol. 2020;5 (12):1390-1398. doi:10.1001/jamacardio.2020.4097
- Fraser A, Nelson SM, Macdonald-Wallis C, et al. Associations of pregnancy complications with calculated cardiovascular disease risk and cardiovascular risk factors in middle age: the Avon Longitudinal Study of Parents and Children. Circulation. 2012;125(11):1367-1380. doi:10.1161/CIRCULATIONAHA.111.044784
- Crump C, Sundquist J, McLaughlin MA, et al. Adverse pregnancy outcomes and long term risk of ischemic heart disease in mothers: national cohort and co-sibling study. BMJ. 2023;380:e072112. doi:10.1136/bmj-2022-072112
(文責:川端 伊久乃)