文献紹介
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母体の腎臓の大きさは、妊娠経過や胎児に影響する

Title:

Any reduction in maternal kidney mass makes a difference during pregnancy in gestational and fetal outcome

タイトル:

妊娠中の母体の腎臓重量の減少は、妊娠および胎児の結果に違いをもたらす

著者:

Piccoli GB, Attini R, Torreggiani M, Chatrenet A, Manzione AM, Masturzo B, Casula V, Longhitano E, Dalmasso E, Biancone L, Pani A, Cabiddu G.

ジャーナル:

Kidney Int. 2024;105(4):865-876.doi: 10.1016/j.kint.2023.12.018.

KeyPoint

慢性腎臓病(chronic kidney disease: CKD)は、妊娠予後不良の危険因子であり、軽症であっても、妊娠出産に影響を及ぼすことが指摘されています1)。また、腎障害の既往、移植ドナーとしての腎提供も、高血圧・蛋白尿・腎機能障害の有無に関わらず、母体胎児の予後不良と関連すると言われています2,3)。腎障害の原因となる疾患については、糸球体腎炎に関する報告は多くみられますが、尿細管間質性腎炎や先天性尿路奇形、急性腎盂腎炎の既往、単腎についてはほとんど研究されていません。今回ご紹介する論文では、腎組織の減少が妊娠結果に及ぼす影響を検討するため、高血圧や蛋白尿のない尿細管間質性疾患を伴うCKDステージ1の妊婦をCKD をもたない低リスクの妊婦と比較しました。その結果、早産や低出生体重児出産のリスクは、単純な腎瘢痕から単腎(すなわち、腎重量の 50% の喪失)まで、腎組織の喪失量に比例して常に増加することが判明しました。この報告は、軽度の腎障害が妊娠期間の短縮に大きく影響し、妊娠の不良な転帰につながる可能性のあることを示唆しています。

以上の結果から、妊娠管理の際には腎機能だけでなく、腎疾患の既往や、腎臓の大きさについても注意を払うことが大切だと思われます。
【目的】尿細管間質性疾患が妊娠中の母体・胎児の転帰に及ぼす影響についてはほとんどわかっていないため、母体の腎容積の減少が妊娠結果にもたらす役割を理解することを目的とした。

【方法】トリノ・カリアリ観察研究(TOCOS)コホートから、尿細管間質性疾患の診断を受けた患者529人を選択し、紹介時に高血圧はないが蛋白尿が0.5g/日未満の慢性腎臓病(CKD)ステージ1 (eGFR 90ml/min以上)の患者421人を抽出した。同じ設定で追跡された低リスク妊娠からの単胎出産2969人のコホートから、年齢、出産回数、BMI、民族、出身地が2:1で一致する傾向スコアによるマッチング対照コホート842人を選択した。

【結果】妊娠37週未満での出産の頻度は、対照群で7.4%、以前に急性腎盂腎炎に罹患した群で10.8%、その他の尿細管間質性疾患の群で9.7%であり、単腎患者の群では31.1%と最も高かった。同様に新生児の出生体重は、対照群(3260 g [Q1-Q3: 2980-3530])と比較して、以前に急性腎盂腎炎に罹患した群(3090 g [Q1-Q3: 2868-3405])、その他の尿細管間質性疾患の群(3110 g [Q1-Q3: 2840-3417])、および単腎患者の群(2910 g [Q1-Q3: 2480-3240])と有意に徐々に減少した。妊娠高血圧症候群を発症するリスクは、低リスク対照群の1.7%に対して、CKD患者の群で3.6%と有意に高くなった。在胎不当過小(small for gestational age)児(<10th centile)の出産は、患者サブグループ間で差はなかった。妊娠高血圧腎症の発生率は、マッチさせた対照群よりも患者全例群で有意に高かった(全例3.6 vs. 対照群1.7%;p= 0.034)。

【結論】腎盂腎炎瘢痕などにより、機能する腎の大きさがほんの少し減少するだけでも、妊娠期間の短縮と早産のリスク増加に関連している。リスクは腎実質減少の程度に比例し、単腎の場合に最も高くなる。

【参考文献】

  1. Piccoli GB, Attini R, Vasario E,al. Pregnancy and Chronic Kidney Disease: A Challenge in All CKD Stages. Clin J Am Soc Nephrol.2010; 5: 844–855.

  2. Tangren JS, Wan Md Adnan WAH, Powe CE, et al. Risk of Preeclampsia and Pregnancy Complications in Women With a History of Acute Kidney Injury 2018;72: 451-459.

  3. DavisSDylewski JShah PB, et.al. Risk of adverse maternal and fetal outcomes during pregnancy in living kidney donors: A matched cohort study. Clin Transplant. 2019; 33. doi:10.1111/ctr.13453.


(文責:島本 真実子)