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妊娠と出産による母の脳皮質容積変化:「mammy brain」や 「産後うつ」の病態解明の一歩となるか?

Title:

Women’s neuroplasticity during gestation, childbirth and postpartum

タイトル:

妊娠・出産・出産後を通じて女性に起こる「脳の神経可塑性」

著者:

María Paternina-Die, Magdalena Martínez-García, Daniel Martín de Blas, Inés Noguero1, Camila Servin-Barthet, Clara Pretus, Anna Soler, Gonzalo López-Montoya, Manuel Desco, Susana Carmona

ジャーナル:

Nature Neuroscience. 2024;27:319-327. https://doi.org/10.1038/s41593-023-01513-2

KeyPoint

妊娠と出産を契機に「mammy brain」「brain zoomies」が引き起こされたり (複数のタスクを同時に行えないと感じたり、記憶力・集中力が低下したと感じることがあります)、 逆に、 児への愛着・共感・思いやりが深くなることが知られています1)。しかしそれらを説明する脳のメカニズムは明らかにされてきませんでした1)。今回, 紹介する論文では、 妊娠・出産・出産後の脳皮質容積の解析からその原因に迫っています。妊娠中の脳皮質容積の減少がmammy brainの解明に繋がるかもしれません1)。妊娠・出産・出産後を通じて成人女性の脳に起こる「神経可塑性」は未解明な状況が続いているため、「妊娠の神経科学」は大きな研究トピックになりつつあります。「妊娠の神経科学」の詳細が解明されることにより2), 3)、mammy brainや産後うつへの対応・予防方法が確立されるかもしれません。「妊娠の神経科学」はアンメットニーズの高い研究領域ですので、今後も多くの研究成果が集積されると期待しています。
【目的】成人女性の脳にはユニークな神経可塑性が出現する時期がある。妊娠、出産、出産後における脳のダイナミックな変化である。本研究では、女性の妊娠、出産、出産後における脳皮質の体積変化を縦断的に解析することにより、 成人女性の脳における神経可塑性の詳細を明らかにすることを目的とした。

【方法】縦断的なcase-control研究である。検証コホート110人 (再現コホート29人) の初産婦と未経産婦34人の妊娠後期から産後初期における頭部MRI皮質構造変化と産科学的および神経心理学的データを解析した。

【結果】妊娠後期には皮質容積と皮質厚の減少を認めたが、 分娩後早期で増加する。予定帝王切開で出産した婦人は、通常分娩で出産した婦人とは異なる皮質容積の変化を示した。これらは検証コホートだけでなく、再現コホートでも確認された。

【結論】妊娠により脳皮質容積はダイナミックに変化する。脳ネットワークの種類と分娩形式によりこれらの変化は異なる。妊娠・出産・出産後早期の時期を「神経可塑性の脆弱期」と捉え、心と神経のサポートを密に行うことが提案される。

【参考文献】

1) Maxwell AM. What happens to the brain during pregnancy? The Journal of clinical investigation 2024;134.

2) Hoekzema E, Barba-Muller E, Pozzobon C, et al. Pregnancy leads to long-lasting changes in human brain structure. Nature neuroscience 2017;20:287-296.

3) Paternina-Die M, Martinez-Garcia M, Martin de Blas D, et al. Women's neuroplasticity during gestation, childbirth and postpartum. Nature neuroscience 2024;27:319-327.

 

(文責:河内 泉)