妊娠前にやせている女性は産後2年以内の骨折リスクが高い
Title:
Preconception underweight impact on postnatal osteoporotic fracture: a retrospective cohort study using Japanese claims data.
タイトル:
妊娠前のやせが産後の骨粗鬆症性骨折に及ぼす影響: 日本のレセプトデータを用いた後方視的コホート研究
著者:
Kaneko K, Suto M, Miyagawa E, Mikami M, Nakamura Y, Murashima A, Takehara K.
ジャーナル:
BMC Pregnancy Childbirth. 2024; 24(1): 315. doi: 10.1186/s12884-024-06514-y
KeyPoint
本邦の20代女性の5人に1人はやせ(BMI<18.5)に該当する。妊娠出産の場面において、妊娠前の女性のやせは37週未満の早産や2500g未満の低出生体重児のリスクとなり1)、本邦の低出生体重児が多い要因の一つとなっている2)。また、やせは主に骨形成の低下によって骨量が減少し、骨密度の低下をきたすものの、妊娠を経験したやせの女性が、将来どのような骨の健康に関するリスクを抱えているのか、その実態は明らかでなかった。本研究により、妊娠前にBMI18.5未満のやせがある女性は、産後2年以内の脆弱性骨折のリスクがBMI18.5以上の群と比べて1.8倍高いことが示された。産後の女性は、1日の大半を育児に費やし、日々体重が増えるわが子を気が遠くなるほど長時間抱っこし、時にはおんぶをしながら家事をこなすなど、筋骨格系への負担は語りつくせないほどである。そこに骨折というイベントが加わるだけで、女性だけでなくわが子もまきこんだ日常生活の破綻が生じる可能性がある。骨折は命に係わるイベントではない。しかし、確実にQOLを低下させるきっかけになるため、発生頻度は非常に少ないものの、すべての産後の女性が、健やかに自身が望む人生を送れるように妊娠前から骨密度を意識した健康管理を母性内科医として支援することが望まれる。
【目的】妊娠可能世代の日本人女性における妊娠前の低体重と産後の脆弱性骨折との関連を明らかにすること。
【方法】2006年から2020年12月までのJMDC Claims Databaseから子どもと女性を抽出した。子どもは、生年月日と保険加入日が一致するものを、女性については、子どもに紐づけられた女性のうち保険加入者が本人または配偶者の関係にあるものを抽出した。母体の保険加入期間終了後に子が出生している症例(n=29,504)、多胎妊娠(n=2,477)、兄姉のいる母子ペア(n=9,491)、出産前1-3年に母の定期健診データのない症例(n=204,459)を除外し、最終的に16,684ペアを分析した。なお、妊娠前のBMIについては、子の誕生日よりも12-36か月前に実施した母の定期健康診断のうち、子の誕生日に近いBMI値を採用した。脆弱性骨折については、腰椎、胸椎、大腿骨近位部、上腕骨近位部、橈骨遠位部、骨盤、下腿、肋骨の8か所の骨折を対象とした。
【結果】調査対象者のうち51人(0.31%)が産後2年以内に脆弱性骨折を発症した。特に産後12-14か月に発生した症例が11例(21.6%)と最も多く、産後1-2年の間に33例(64.7%)の骨折が発生した。骨折部位としては肋骨骨折が86.3%を占めていた。低BMI(BMI<18.5)の女性の骨折有病率は正常BMI(BMI18.5-24.9)、高BMI(BMI>25)の女性の有病率よりも高く(0.47%, 0.25%, 0.21%)、正常または高BMIよりも産後2年の脆弱性骨折が有意に多いことが示された(HR: 1.8, 95%CI: 1.01-3.34)。ただし、分娩時年齢、1日のアルコール摂取量、喫煙習慣、帝王切開を調整因子とした多項ロジスティック回帰分析では有意な関連は見られなかった。
【結論】JMDC Claim Databaseを用いた後視的研究により、妊娠前の低体重と産後2年以内の脆弱性骨折の発生率との潜在的関連が明らかになった。本研究では肋骨骨折が多かったがJMDC Claim Databaseには交通事故による疾病コードが含まれないことと、産後2年以内の女性が骨折を誘発しうる高強度の運動を行う可能性は低く、軽微な外傷で発生した脆弱性骨折と考えられた。骨折歴は将来のより大きな骨折の危険因子になることから、出産後に脆弱性骨折を発症した女性には、適切なビタミンD補充とカルシウムの摂取、運動習慣の指導、定期的な骨密度測定、薬物治療を行うことで、将来の骨折を予防し、健康寿命を延ばす可能性がある。
【参考文献】
1) Nakanishi, et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2022; 22(1): 121.
2)厚労省. 健康日本21(第二次)最終評価報告書 第3章(I~II4). https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_28410.html〈最終アクセス2024.04.30〉
【方法】2006年から2020年12月までのJMDC Claims Databaseから子どもと女性を抽出した。子どもは、生年月日と保険加入日が一致するものを、女性については、子どもに紐づけられた女性のうち保険加入者が本人または配偶者の関係にあるものを抽出した。母体の保険加入期間終了後に子が出生している症例(n=29,504)、多胎妊娠(n=2,477)、兄姉のいる母子ペア(n=9,491)、出産前1-3年に母の定期健診データのない症例(n=204,459)を除外し、最終的に16,684ペアを分析した。なお、妊娠前のBMIについては、子の誕生日よりも12-36か月前に実施した母の定期健康診断のうち、子の誕生日に近いBMI値を採用した。脆弱性骨折については、腰椎、胸椎、大腿骨近位部、上腕骨近位部、橈骨遠位部、骨盤、下腿、肋骨の8か所の骨折を対象とした。
【結果】調査対象者のうち51人(0.31%)が産後2年以内に脆弱性骨折を発症した。特に産後12-14か月に発生した症例が11例(21.6%)と最も多く、産後1-2年の間に33例(64.7%)の骨折が発生した。骨折部位としては肋骨骨折が86.3%を占めていた。低BMI(BMI<18.5)の女性の骨折有病率は正常BMI(BMI18.5-24.9)、高BMI(BMI>25)の女性の有病率よりも高く(0.47%, 0.25%, 0.21%)、正常または高BMIよりも産後2年の脆弱性骨折が有意に多いことが示された(HR: 1.8, 95%CI: 1.01-3.34)。ただし、分娩時年齢、1日のアルコール摂取量、喫煙習慣、帝王切開を調整因子とした多項ロジスティック回帰分析では有意な関連は見られなかった。
【結論】JMDC Claim Databaseを用いた後視的研究により、妊娠前の低体重と産後2年以内の脆弱性骨折の発生率との潜在的関連が明らかになった。本研究では肋骨骨折が多かったがJMDC Claim Databaseには交通事故による疾病コードが含まれないことと、産後2年以内の女性が骨折を誘発しうる高強度の運動を行う可能性は低く、軽微な外傷で発生した脆弱性骨折と考えられた。骨折歴は将来のより大きな骨折の危険因子になることから、出産後に脆弱性骨折を発症した女性には、適切なビタミンD補充とカルシウムの摂取、運動習慣の指導、定期的な骨密度測定、薬物治療を行うことで、将来の骨折を予防し、健康寿命を延ばす可能性がある。
【参考文献】
1) Nakanishi, et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2022; 22(1): 121.
2)厚労省. 健康日本21(第二次)最終評価報告書 第3章(I~II4). https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_28410.html〈最終アクセス2024.04.30〉
(文責:三島 就子)