文献紹介
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全身性強皮症の活動性に妊娠は影響を与えない

Title:

Effect of pregnancy on scleroderma progression

タイトル:

妊娠が強皮症の進行に与える影響

著者:

Siobhan Deshauer, Mats Junek, Murray Baron, Karen A Beattie, Margaret J Larché

ジャーナル:

J Scleroderma Relat Disord.2023; 8(1):27-30.doi:10.1177/23971983221101311.

KeyPoint

全身性強皮症は、全身性に膠原線維の沈着により皮膚硬化のみならず肺・腎・消化管など多臓器病変が引き起こされる自己免疫疾患の1つである。女性では50歳代の発症がピークであるが妊娠可能である年齢2044歳の発症が9.8%(942/9630例)を占めている1)。全身性強皮症合併妊娠の統計的レビュー2)では、健常対照群と比較して、流産(OR 1.6、)、子宮内発育遅延(OR 3.2)、早産(OR 2.4)、低出生体重児(OR 3.8)のリスクが高いことが示された。全身性強皮症患者は対照群と比較して、妊娠高血圧症候群(OR 2.8)を発症する確率が2.8倍高く、帝王切開分娩の確率(OR 2.3)が高かったと報告している。これまでの研究では、妊娠中および産後短期間の疾患活動性に焦点が当てているが、妊娠が疾患に対して長期的な全身性強皮症へ影響を与えるかについて検討された報告はない。本報告は、全身性強皮症合併妊娠と未産婦を9年間にわたり臓器病変の評価し、比較検討した結果、2群間に有意差はなく妊娠が全身性強皮症の活動性に影響を与えないと報告している。全身性強皮症患者に希望を与えるメッセージとなるが、9年後の妊娠群の症例数が少ないためか、今後も分娩後の活動性に注意が必要であるとも締めくくられている。
【目的】全身性強皮症の診断後に妊娠を経験した女性における強皮症の疾患活動性の経時的変化を、未産婦の女性と比較して検討すること。

【方法】カナダ強皮症研究グループ(Canadian Scleroderma Research Group)の登録データから、全身性強皮症と診断された後に1回以上妊娠を経験した女性および未産婦の女性を同定し、解析した。登録時の患者背景を群間で比較した。年齢、喫煙、全身性強皮症と診断されてからの期間を調整し、一般化推定方程式を用いて、9 年以上もわたり肺活量、一酸化炭素に対する肺拡散能、右室収縮期圧、糸球体濾過率、抗体の状態,活動性指尖部潰瘍,医師による疾患活動性と重症度の評価、妊娠への影響を検討した。

【結果】登録時、未産婦群と全身性強皮症診断後の妊娠群の女性数はそれぞれ153人と45人であった。6年後と9年後に対応する人数は、それぞれ48人と21人、18人と9人であった。抗トポイソメラーゼ抗体陽性率は、未産婦群で18.3%、全身性強皮症診断後の妊娠群で12.5%であった。登録時の差は、診断年齢の平均値(SD)(未産婦群:38.814.0)歳、全身性強皮症診断後の妊娠群:22.66.8)歳、p0.001)、罹病期間(未産婦群:9. 68.9)年、全身性強皮症診断後の妊娠群:21.99.6)年、p0.001)、炎症性関節炎(未産婦群:4128%)年、全身性強皮症診断後の妊娠群:2249%)年、p0.009)であった。いずれの結果も評価期間における変化は、2群間に有意差は認められなかった。

【結論】全身性強皮症と診断された後に1回以上妊娠することが、長期的な腎機能、呼吸機能、全身機能の転帰に有意な影響を与えないことが示された。この結果は、妊娠を計画している全身性強皮症患者に希望に満ちたメッセージを与えるものであるが、医師と患者は、今後も潜在的な分娩後合併症に注意する必要がある。

【参考文献】

1) 坂内 文男, 森 満, 石川 治, 他.特定疾患対策研究事業における強皮症の臨床調査個人票の疫学集計, 日本臨床免疫学会会誌 2003;26(2),66-73.https://doi.org/10.2177/jsci.26.66

2)Blagojevic J, AlOdhaibi KA, Aly AM,et al.Pregnancy in Systemic Sclerosis: Results of a Systematic Review and Metaanalysis. The Journal of Rheumatology 2020;47 (6):881-887  DOI: https://doi.org/10.3899/jrheum.181460

(文責:辻 聡一郎)