定期的な経過観察を受けている抗SSA/Ro抗体陽性妊娠における先天性心ブロック発生頻度は既報より低い可能性
Title:
Anti-SSA/Ro positivity and congenital heart block: obstetric and foetal outcome in a cohort of anti-SSA/Ro positive pregnant patients with and without autoimmune diseases
タイトル:
抗SSA/Ro抗体陽性と先天性心ブロック:抗SSA/Ro抗体陽性の妊婦コホートにおける産科的および胎児予後
著者:
M. Fredi, L.M. Argolini, F. Angeli1, L. Trespidi, V. Ramoni, S. Zatti, T. Vojinovic, D. Donzelli, F.G. Gazzola, B. Xoxi, L. Andreoli, A. Lojacono, E. Ferrazzi, C. Montecucco, C.B. Chighizola, P.L. Meroni, F. Franceschini, R. Cimaz, R. Caporali, A. Tincani, M. Gerosa
ジャーナル:
Clin Exp Rheumatol. 2023;41(3):685-693. doi:10.55563/clinexprheumatol/2ju0yv.
KeyPoint
新生児ループスは、抗SSA/Ro抗体の経胎盤通過によって引き起こされる先天性疾患です。その最も重篤な症状である先天性心ブロック(CHB)の発生率は、これまでの報告で1〜5%と幅があります1,2)。本研究では、抗SSA/Ro抗体陽性妊婦を対象とし、妊娠第16週から第24週まで毎週胎児心拍数の評価を行った際の、CHBの有病率を明らかにしました。その結果、CHBの有病率は以前の報告よりはるかに低く1/314(0.3%)でした。本研究の参加者の大多数がプレコンセプションカウンセリングを受けていたことから、もともと基礎疾患の厳重なコントロールを受けていたことが、妊娠中の厳重な経過観察と共にCHBを含む有害な妊娠転帰のリスクを低減する可能性があるのではないかと筆者らは考察しています。これらの知見は、妊娠を希望する抗SSA/Ro陽性患者のプレコンセプションカウンセリングに役立つ可能性があり、また集学的チームによる妊娠期間中の定期的かつ厳重な経過観察が有害事象のリスクを最小限に抑えるために重要であることを示唆しています。
【目的】自己免疫疾患合併の有無にかかわらず、抗SSA/Ro抗体陽性妊婦におけるCHBの有病率を後方視的に評価すること。
【方法】2010年1月から2020年12月までにイタリアの3施設に通院する抗SSA/Ro抗体陽性妊婦を対象とした。妊娠第16週から第24週まで毎週、胎児心拍数の評価を行った。胎児心拍数が100bpm未満の場合、ドプラ心エコーを行った。CHBI度はPR間隔≧150msと定義した。CHBⅡ度はMモード心エコーで診断された心房収縮と心室収縮の断続的な解離、CHBⅢ度は心房活性化と心室活性化の完全な解離と定義した3)。
【結果】抗SSA/Ro陽性患者258人の322妊娠が対象となった。そのうち314妊娠では抗SSA/Ro抗体が陽性だったため妊娠初期から経過観察され、CHBを認めたのは1例(0.3%)であった。一方、胎児心拍が110bpm未満で精査の結果CHBと診断され、その後に抗SSA/Ro抗体陽性が判明した患者がさらに8例紹介された。合計では、9例のCHB(2.8%)が発生し、CHBⅢ度が7例、CHBⅡ-Ⅲ度が1例、CHBⅠ度が1例であった。母体原疾患としては、8例が自己免疫疾患合併のない抗SSA/Ro抗体陽性、1例が関節リウマチであった。CHBを示した9例のうち、6例はSSA/RoとSSB/LAの両方が陽性で、3例はSSA/Roのみが陽性であった。SSA/Ro+SSB/LAの二重陽性患者61人の妊娠数は77例であり、SSB/Laの陽性はCHB発症リスクと関連していた((6/77、7.8%) vs.(3/245、1.2%)p=0.0071、OR=6.81;95%CI 1.76-25.19))。
【結論】本研究では抗SSA/Ro抗体陽性で妊娠初期から経過観察された314妊娠のうち、CHBを合併したのは1例(0.3%)のみで、これは今まで報告されているよりもはるかに低い頻度であった。本研究の参加者の大多数がプレコンセプションカウンセリングを受けており、基礎疾患のコントロールと妊娠中の厳重な経過観察は、CHBを含む有害な妊娠転帰のリスクを低減する可能性が示唆された。
【参考文献】
1)BRITO-ZERON CASALS M, BUYON JP, KHAMASTHA M. The clinical spectrum of autoimmune congenital heart block. Nat Rev Rheumatol 2015;11:301-12.
2)BUYON JP, HIEBERT R, COPEL J et al. Autoimmune-associated congenital heart block: demographics, mortality, morbidity and recurrence rates obtained from a national neonatal lupus registry. J Am Coll Cardiol 1998;31:1658-66.
3)FRIEDMAN DM,KIM MY,COPEL JA et al.Utility of cardiac monitoring in fetuses at risk for congenital heart block: the PR Interval and Dexamethasone Evaluation (PRIDE) prospective study. Circulation 2008;117:485-93.
【方法】2010年1月から2020年12月までにイタリアの3施設に通院する抗SSA/Ro抗体陽性妊婦を対象とした。妊娠第16週から第24週まで毎週、胎児心拍数の評価を行った。胎児心拍数が100bpm未満の場合、ドプラ心エコーを行った。CHBI度はPR間隔≧150msと定義した。CHBⅡ度はMモード心エコーで診断された心房収縮と心室収縮の断続的な解離、CHBⅢ度は心房活性化と心室活性化の完全な解離と定義した3)。
【結果】抗SSA/Ro陽性患者258人の322妊娠が対象となった。そのうち314妊娠では抗SSA/Ro抗体が陽性だったため妊娠初期から経過観察され、CHBを認めたのは1例(0.3%)であった。一方、胎児心拍が110bpm未満で精査の結果CHBと診断され、その後に抗SSA/Ro抗体陽性が判明した患者がさらに8例紹介された。合計では、9例のCHB(2.8%)が発生し、CHBⅢ度が7例、CHBⅡ-Ⅲ度が1例、CHBⅠ度が1例であった。母体原疾患としては、8例が自己免疫疾患合併のない抗SSA/Ro抗体陽性、1例が関節リウマチであった。CHBを示した9例のうち、6例はSSA/RoとSSB/LAの両方が陽性で、3例はSSA/Roのみが陽性であった。SSA/Ro+SSB/LAの二重陽性患者61人の妊娠数は77例であり、SSB/Laの陽性はCHB発症リスクと関連していた((6/77、7.8%) vs.(3/245、1.2%)p=0.0071、OR=6.81;95%CI 1.76-25.19))。
【結論】本研究では抗SSA/Ro抗体陽性で妊娠初期から経過観察された314妊娠のうち、CHBを合併したのは1例(0.3%)のみで、これは今まで報告されているよりもはるかに低い頻度であった。本研究の参加者の大多数がプレコンセプションカウンセリングを受けており、基礎疾患のコントロールと妊娠中の厳重な経過観察は、CHBを含む有害な妊娠転帰のリスクを低減する可能性が示唆された。
【参考文献】
1)BRITO-ZERON CASALS M, BUYON JP, KHAMASTHA M. The clinical spectrum of autoimmune congenital heart block. Nat Rev Rheumatol 2015;11:301-12.
2)BUYON JP, HIEBERT R, COPEL J et al. Autoimmune-associated congenital heart block: demographics, mortality, morbidity and recurrence rates obtained from a national neonatal lupus registry. J Am Coll Cardiol 1998;31:1658-66.
3)FRIEDMAN DM,KIM MY,COPEL JA et al.Utility of cardiac monitoring in fetuses at risk for congenital heart block: the PR Interval and Dexamethasone Evaluation (PRIDE) prospective study. Circulation 2008;117:485-93.
(文責:岡﨑 有香)