文献紹介
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出生前の葉酸サプリメント摂取は、児の神経発達に良い影響を与える可能性がある

Title:

Neurodevelopmental effects of maternal folic acid supplementation: a systematic review and meta-analysis

タイトル:

母体の葉酸サプリメント摂取が児の神経発達へ及ぼす影響について:a systematic review and meta-analysis

著者:

Hanxiao Chen, Lang Qin, Rui Gao, Xiaolei Jin, Kemin Cheng, Siri Zhang, Xiao Hu, Wenming Xu & Honging Wang

ジャーナル:

Crit Rev Food Sci Nutr. 2023;63(19):3771-3787. doi: 10.1080/10408398.2021.1993781.

KeyPoint

母性内科にかかわるメディカルスタッフは、患者の妊娠の可能性について問診し、その可能性があれば妊娠前(1-2ヶ月以上前)から葉酸サプリメントの摂取(400-800μg/日)を推奨して欲しい。妊娠前からの摂取でないと児の神経管閉鎖障害は予防できない。その一方で妊娠前から出生前まで継続的にFA摂取をした場合には、さまざまな周産期アウトカム(流産、常位胎盤早期剥離、妊娠高血圧腎症、早産、低出生体重児、産後うつ、児のIQ上昇)を改善することが報告されている。今回の文献報告では、出生前のFAサプリメント摂取が児の神経発達に良い影響を与える可能性があるが、FAの過剰摂取(1g/日以上あるいは5mg/日以上)は負の影響をもたらす可能性があることについて解説する。以上のことを考えると、妊娠が発覚してからでもFAサプリメントを妊娠12週以降から出生前まで継続摂取することで、いくつかの周産期アウトカムが改善される可能性がある。
【背景】葉酸はビタミンB群(B9)に分類される。葉酸(FA)サプリメント(400-800μg/日)の妊娠前から妊娠12週までの摂取は、児の神経管閉鎖障害(無頭蓋症や二分脊椎など)の罹患率を40-80%減らす。妊娠6週には神経管は閉鎖するので、妊娠が発覚してからのFA補充ではその罹患率を減らすことはできない。本邦では妊娠前からのFA摂取率が極めて低いため、妊娠を考えている女性にFAの摂取の必要性を周知し促すことは、国策であるプレコンセプションケアの体制構築の一つとして重要な課題である。また最近では妊娠期間中のFA摂取が母児のさまざまな周産期アウトカムを改善することがあきらかとなってきた。今回妊娠中のFA摂取が、児の神経発達に与える影響について2023年にSystematic review and meta-analysisが報告されたので紹介する。

【目的】母親のFA摂取が出生後の児のさまざまな神経発達への影響について関連性を評価する。

【方法】MEDLINE、Web of Science、Cochrane Library、Scopus、EMBASE、PsychInfoなどのデータベースから抽出した研究を抽出し、母親のFA摂取が、知的発達、自閉症スペクトラム(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、行動、言語、精神運動発達などの出生後の児に関する神経発達への影響についてSystematic review and meta-analysisを行った。

【結果】9256文献中で抽出された研究は、39件でコホート研究が32件、症例研究7件であった。報告の質評価は、high qualityが14件、moderate qualityが24件、low qualityが1件であった。

FA摂取と知的発達、認知機能の関連

7件の文献報告の利用可能なデータのプール解析では、出生前の葉酸摂取とIQまたは知能発達との間に有意な関連はないことが示され、そのβ係数は1.30(95% CI−1.61, 4.21)であった。しかし研究間での異質性が中程度(I= 73%, p <0.01)あったため、ランダム効果モデルで感度分析したところ、1つの報告を除外して研究間の異質性は減少し、β係数は、2.33(95%CI 0.267, 4.397, p=0.027)であり、出生前の葉酸摂取とIQまたは知能発達との間に有意な関連性が示された。

FA摂取と自閉症・注意欠陥多動性障害の関連

母親のFA摂取が子供の自閉症スペクトラムに及ぼす影響を評価した研究は18件あり、そのうち11件はコホート研究、7件は症例対照研究であった。症例対照研究のランダム効果モデルの感度分析では、出生前のFA摂取と自閉症スペクトラムのリスクと間に有意な関連が認められ、母親のFA摂取レベルが高いほど、自閉症スペクトラムのリスクが低下することが示された(OR 0.56, 95% CI 0.35, 0.89)であった。またコホート研究のメタ解析から、以下のことが明らかになった。母親のFA補給レベルが高いほど、自閉症のリスクが低いことが明らかになった。7つの研究で、母親のFA摂取が注意欠陥多動性障害(ADHD)に及ぼす影響が検討されており、この7つの報告のプール解析では出生前のFA補給とADHDの関連性について逆相関(OR 0.86, 95%CI 0.78, 0.95)を示した。つまり出生前のFA補給はADHDのリスクを上昇させる結果となった。

問題行動のアウトカム

子供の問題行動と母体の葉酸摂取の影響を調べたメタアナイライシスでは、出生前のFA補給と子供の行動問題のリスクとの間に負の相関が示された(OR 0.75, 95CI 0.63−0.91)。

言語障害のアウトカム

出生前のFA補給が子供の言語発達に及ぼす潜在的影響については、9つの研究によって評価され、プール解析では関連性を認めなかったが、ランダム効果モデルで、1つの研究を除外することで研究間の異質性を減少させて解析した結果、母親の葉酸摂取レベルが高いほど、子どもの言語障害のリスクが低いことが示された。β係数は、-0.454(95%CI  -0.726 -0.182 p=0.001)であった。精神運動発達については、8つの研究を検討し、母親のFA摂取量と子孫の精神運動発達との間に有意な関連は認められなかった。研究間で中程度の異質性が検出されたため、ランダム効果モデルを使用したが同様の結果であった。

【結果のまとめ】32のコホート研究と7つの症例対照研究が抽出された。本研究では、出生前のFA補給が、知的発達の改善、自閉症スペクトラム、注意欠如・多動症(ADHD)、問題行動、言語障害のリスク低下など、児の神経発達アウトカムにプラスの影響を与えることをわかった。ただしFAの過剰摂取(1g/日以上あるいは5mg/日以上)は、児の神経発達の改善とは関連せず、むしろ悪影響(逆相関)を及ぼす可能性があることがわかった。

【結論】本研究は、FA摂取と出生児の神経発達に関する最初のSystematic review and meta-analysisである。LimitationとしてはFA摂取の異なる投与量と期間に焦点を絞ったさらなる研究が必要である。

(文責: 藤田 太輔)