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抗リン脂質抗体症候群の分類基準が約20年ぶりに改訂 ~2023 ACR/EULAR 抗リン脂質抗体分類基準~

Title:

2023 ACR/EULAR antiphospholipid syndrome classification criteria.

タイトル:

2023 ACR/EULAR 抗リン脂質抗体分類基準

著者:

Barbhaiya M, Zuily S, Naden R, Hendry A, Manneville F, Amigo MC, et al.

ジャーナル:

Ann Rheum Dis. 2023. Aug 28:ard-2023-224609. doi: 10.1136/ard-2023-224609.

KeyPoint

20年ぶりに抗リン脂質抗体症候群(APS)の分類基準が改訂されました。従来の基準(2006Sapporo基準シドニー改変)1)と異なり、臨床症状と検査結果がそれぞれ6つの臨床ドメインと2つの検査ドメインとして点数化され、臨床と検査、それぞれの領域のスコアの合計が3点以上となった時にAPSと分類される仕組みになっています(表)。この基準は、あくまで観察研究や臨床試験で使用するために作成されたものであり、臨床現場での治療適応の判断にそのまま適応される訳でないことに注意が必要ですが、特に周産期領域においては、もともと非特異的とされていた習慣流産に対する重みづけが小さくなった一方、抗リン脂質抗体の作用として特異性の高い重症の胎盤機能不全や重症妊娠高血圧腎症の存在に重きをおいている点で、より特異性の高い分類基準となっています。また分枝状皮斑などの微小血管障害や血小板減少、心弁膜症といった、血栓症・産科合併症以外の多彩な臨床症状が臨床ドメインに追加されたことも大きな変更点といえるでしょう。今後はこの分類基準をいかに臨床現場に生かしていくか、その検証が行われていくと考えられます。


【目的】米国リウマチ学会(ACR)とEULARの共同支援により、観察研究および臨床試験で使用するための特異性の高い新しい抗リン脂質症候群(APS)分類基準を開発する。

【方法】この国際的な学際的イニシアチブは4つの段階を含んでいた。つまりPhase1:調査および文献レビューによる基準作成、Phase2:修正デルファイ法および名義グループ法演習による基準の削減、Phase3:基準の定義と実際の患者シナリオに基づく基準のさらなる削減、そして多基準決定分析による重み付けと閾値の特定、そしてPhase4:独立した判定者の総意をゴールデン・スタンダードとして用いた検証である。

【結果】2023年のACR/EULARAPS分類基準では、まず「抗リン脂質抗体に関連した臨床症状を認めた3年以内に、少なくとも1回以上、抗リン脂質抗体が陽性となること」という登録基準が定められる。この登録基準に該当しない症例はAPSとは分類されず、該当する症例においてのみ、追加の基準が適応される。追加基準では、6つの臨床ドメイン(静脈血栓症、動脈血栓症、微小血管障害、産科的合併症、心臓弁膜症、血小板減少症(2-13万))、および2つの検査ドメイン(ループスアンチコアグラントおよび抗カルジオリピンIgG/M かつ/または 抗β2GPI抗体)において、それぞれ17点からなるスコアによる重みづけがなされ、臨床と検査、それぞれの領域で3点以上獲得した症例がAPSと分類されることとなる。コホートを用いた検証において、旧基準に対する新しいAPS分類基準の特異度は99%対86%、感度は84%対99%であった。

【結論】新しいACR/EULAR APS分類基準は、学際的で国際的な意見を取り入れ、厳密な方法論を用いて作成された。本基準は階層的にクラスター化され、重み付けとリスク層別化が行われているため、APSに関する現在の考え方を反映しており、高い特異性と将来のAPS研究のための強固な基盤を提供している。

【参考文献】

1) Miyakis S, Lockshin MD, Atsumi T, et al. International consensus statement on an update of the classification criteria for definite antiphospholipid syndrome (APS). Journal of thrombosis and haemostasis : JTH. 2006;4:295-306.

(文責:金子佳代子)