高安動脈炎合併妊娠に対するトシリズマブ継続投与の安全性に関する報告
Title:
Safe use of tocilizumab in pregnant women with Takayasu arteritis: three case studies
タイトル:
高安動脈炎合併妊娠にトシリズマブを安全に使用できた3症例
著者:
Konagai N, Aoki Kamiya C, Nakanishi A, Iwanaga N, Sasada M, Kakigano A, Kanagawa T, Eto S, Nishida Y, Nakaoka Y, Yoshimatsu J
ジャーナル:
RMD Open. 2023 Feb;9(1):e002996. doi: 10.1136/rmdopen-2023-002996.
KeyPoint
高安動脈炎 (TAK) は大動脈やその分枝血管に炎症が生じ、血管の狭窄や拡張が起こることで動脈解離や様々な臓器障害を引き起こす疾患です。疾患活動性が高い場合には、妊娠高血圧症候群や胎児発育不全を合併するリスクが高まることが知られています1)。そのため、妊娠前・妊娠中を通して病勢が良好にコントロールされていることが重要です。高用量ステロイドに依存した難治例において、抗IL-6受容体抗体トシリズマブ (TCZ) は、疾患活動性を抑制しながらステロイド投与量を抑える効果があることが報告されました2)。妊娠中のTCZ使用に関しては主に関節リウマチ患者を対象とした報告がありますが、大部分の症例で妊娠前または妊娠判明時にTCZを中断しており3-4)、早産・低出生体重の増加が治療中断に伴う原疾患再燃に起因するのか、薬剤そのものによる影響なのか明言することができませんでした。本論文は、難治性TAK女性3症例に対して妊娠前からTCZを用い病勢が落ち着いた状態で妊娠に臨み、TCZを継続投与したままTAK再燃、周産期合併症、および胎児合併症なく分娩に至ることができたと報告しています。今後、同様の疾患をもつ女性がより安全に妊娠・出産に臨むことができるよう、妊娠中のTCZ継続使用に関するデータが蓄積されることが望まれます。
【目的】
高安動脈炎 (TAK) 合併妊娠におけるトシリズマブ (TCZ) の安全性を評価すること。
【症例】
症例1は26歳、未経妊、慢性高血圧合併例で、プレドニゾロン (PSL) 10 mgでTAKが再燃し、また大動脈弓部3分枝と冠動脈起始部の高度狭窄、閉塞があり血管病変が重篤であった。症例2は30歳、未経妊、重症肺高血圧合併例で、HLA-B52陽性からステロイド抵抗性が予想された。症例3は34歳、未経妊、慢性高血圧合併例で、TAK活動性抑制のためにPSL 35 mgと複数種の免疫抑制薬を必要とした。いずれもTCZ 162 mg週1回または2週1回を皮下注射し、妊娠前にPSLを5-10 mgまで減量することができた。十分な説明と同意のうえTCZを継続し、妊娠中のTAK再燃や高血圧の出現・悪化なく、硬膜外麻酔下に満期経腟分娩となった。児は先天異常や感染兆候がなく、週数相当の発育であった。
【結論】
妊娠中もTCZ治療を継続し、母児ともに良好な経過であった難治性TAKの3症例を経験した。治療中断に伴う再燃リスクを考慮し、妊娠中のTAK治療の継続は選択肢の一つと考える。
【参考文献】
1) Partalidou S, Mamopoulos A, Dimopoulou D, et al. . Pregnancy outcomes in takayasu arteritis patients: a systematic review and meta-analysis. Sci Rep 2023;13:546. 10.1038/s41598-023-27379-9
2) Nakaoka Y, Isobe M, Takei S, et al. . Efficacy and safety of tocilizumab in patients with refractory Takayasu arteritis: results from a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial in Japan (the takt study). Ann Rheum Dis 2018;77:348–54. 10.1136/annrheumdis-2017-211878
3) Nakajima K, Watanabe O, Mochizuki M, et al. . Pregnancy outcomes after exposure to tocilizumab: a retrospective analysis of 61 patients in Japan. Mod Rheumatol 2016;26:667–71. 10.3109/14397595.2016.1147405
4) Hoeltzenbein M, Beck E, Rajwanshi R, et al. . Tocilizumab use in pregnancy: analysis of a global safety database including data from clinical trials and post-marketing data. Semin Arthritis Rheum 2016;46:238–45. 10.1016/j.semarthrit.2016.05.004
高安動脈炎 (TAK) 合併妊娠におけるトシリズマブ (TCZ) の安全性を評価すること。
【症例】
症例1は26歳、未経妊、慢性高血圧合併例で、プレドニゾロン (PSL) 10 mgでTAKが再燃し、また大動脈弓部3分枝と冠動脈起始部の高度狭窄、閉塞があり血管病変が重篤であった。症例2は30歳、未経妊、重症肺高血圧合併例で、HLA-B52陽性からステロイド抵抗性が予想された。症例3は34歳、未経妊、慢性高血圧合併例で、TAK活動性抑制のためにPSL 35 mgと複数種の免疫抑制薬を必要とした。いずれもTCZ 162 mg週1回または2週1回を皮下注射し、妊娠前にPSLを5-10 mgまで減量することができた。十分な説明と同意のうえTCZを継続し、妊娠中のTAK再燃や高血圧の出現・悪化なく、硬膜外麻酔下に満期経腟分娩となった。児は先天異常や感染兆候がなく、週数相当の発育であった。
【結論】
妊娠中もTCZ治療を継続し、母児ともに良好な経過であった難治性TAKの3症例を経験した。治療中断に伴う再燃リスクを考慮し、妊娠中のTAK治療の継続は選択肢の一つと考える。
【参考文献】
1) Partalidou S, Mamopoulos A, Dimopoulou D, et al. . Pregnancy outcomes in takayasu arteritis patients: a systematic review and meta-analysis. Sci Rep 2023;13:546. 10.1038/s41598-023-27379-9
2) Nakaoka Y, Isobe M, Takei S, et al. . Efficacy and safety of tocilizumab in patients with refractory Takayasu arteritis: results from a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial in Japan (the takt study). Ann Rheum Dis 2018;77:348–54. 10.1136/annrheumdis-2017-211878
3) Nakajima K, Watanabe O, Mochizuki M, et al. . Pregnancy outcomes after exposure to tocilizumab: a retrospective analysis of 61 patients in Japan. Mod Rheumatol 2016;26:667–71. 10.3109/14397595.2016.1147405
4) Hoeltzenbein M, Beck E, Rajwanshi R, et al. . Tocilizumab use in pregnancy: analysis of a global safety database including data from clinical trials and post-marketing data. Semin Arthritis Rheum 2016;46:238–45. 10.1016/j.semarthrit.2016.05.004
(文責:小永井 奈緒)