妊娠中のTNF阻害剤使用が、妊娠転帰も改善する可能性
Title:
Tumour necrosis factor inhibitor use during pregnancy is associated with increased birth weight of rheumatoid arthritis patients’ offspring
タイトル:
妊娠中のTNF阻害剤使用が児の体重増加に寄与− PreCARAコホート研究より−
著者:
Smeele HTW, Röder E, Mulders AGMGJ, Steegers EAP, Dolhain RJEM.
ジャーナル:
Ann Rheum Dis. 2022;81(10):1367-1373. doi: 10.1136/ard 2022 222679.
KeyPoint
関節リウマチ(RA)合併妊娠では、疾患活動性が高いと妊娠合併症リスクが増加することがわかっています 1)。このため妊娠中も疾患活動性を良好に管理することが重要であり、TNF阻害剤(TNFi)は流産や先天異常のベースラインリスクを増加させないことが明らかになっていることから妊娠中のRA治療薬として重要な役割を担っています 2)。一方、妊娠中のTNFi使用と他の妊娠アウトカム(早産、帝王切開、低出生体重、Small for gestational age等)との関連性については、患者背景の違いなどから研究ごとに結果が分かれており、これまで統一された見解は得られていませんでした。本研究は、PreCARA(Preconception Counseling in Active RA study)コホート 3) において妊娠中の疾患活動性が十分に管理された患者を対象に妊娠アウトカムを評価したものであり、妊娠中のTNFi使用がAdverse pregnancy outcomeを増加させないこと、さらに多変量解析において疾患活動性などの交絡因子を補正した上でも、妊娠中のTNFi使用が児の体重増加に寄与することが示されました。その機序や児への長期的な影響については今後さらなる検討が必要ですが、TNFiが独立した因子として児の適正な体重増加に好影響を及ぼす可能性があることを示した、貴重な結果であると考えられます。
【目的】
厳格な管理を行った関節リウマチ合併妊娠の前向きコホートにおいて、妊娠中にTNFiを使用した症例の妊娠アウトカムを評価すること
【方法】
PreCARAコホートの集団において、最小限の疾患活動性を目標とする治療プロトコールに沿った管理が行われたRA合併妊娠を対象に、重回帰分析を用いて児の出生体重に影響する因子を検討した。
【結果】
188名の患者が含まれ、そのうち妊娠中にTNFiを使用したのは92名(48.9%)だった。DAS28-CRPは妊娠いずれの時期においても低値であった(DAS28-CRP in the third trimester:2.17(SD 0.73)。TNFiの使用と、低出生体重(<2500g)、緊急帝王切開、妊娠高血圧症候群、先天異常といったAdverse pregnancy outcomeとの関連性は認められなかった。また、TNFi使用群のほうが非使用群よりもSmall for gestational ageが少ない傾向があり(p= 0.05)、一方でLarge for gestational ageの有意な増加も認められなかった(p= 0.73)。平均出生体重はTNFi使用群のほうが173g高かった(3344g vs 3171g, p= 0.03)。多変量解析において出生体重と有意な関連性を認めた因子は、母体年齢(β−0.023, 95%CI -0.040 to -0.0065, p=0.007)、TNFi使用(β0.20, 95%CI 0.066 to 0.34, p=0.004)、糖尿病(β0.37, 95% CI 0.12 to 0.63, p=0.004)、在胎週数(β0.18, 95% CI 0.15 to 0.22, p<0.001)であった。
【結論】
本研究では、良好にコントロールされた関節リウマチ合併妊娠において、妊娠中のTNFiの使用はAdverse pregnancy outcomeを増加させず、また疾患活動性などの交絡因子を補正してもなお児の出生体重増加と関連する可能性が初めて示された。TNFiが出生体重に影響する機序や長期的な児への影響については今後の研究で検討する必要がある。
【参考文献】
1) Smeele HTW, Dolhain RJEM. Current perspectives on fertility, pregnancy and childbirth in patients with rheumatoid arthritis. Semin Arthritis Rheum 2019;49:S32–5.
2) Tsao NW, Rebic N, Lynd LD, et al. Maternal and neonatal outcomes associated with biologic exposure before and during pregnancy in women with inflammatory systemic diseases: a systematic review and meta-analysis of observational studies. Rheumatology 2020;59:1808–1817.
3) Smeele HT, Röder E, Wintjes HM, et al. Modern treatment approach results in low disease activity in 90% of pregnant rheumatoid arthritis patients: the PreCARA study. Ann Rheum Dis 2021;80:859–864.
厳格な管理を行った関節リウマチ合併妊娠の前向きコホートにおいて、妊娠中にTNFiを使用した症例の妊娠アウトカムを評価すること
【方法】
PreCARAコホートの集団において、最小限の疾患活動性を目標とする治療プロトコールに沿った管理が行われたRA合併妊娠を対象に、重回帰分析を用いて児の出生体重に影響する因子を検討した。
【結果】
188名の患者が含まれ、そのうち妊娠中にTNFiを使用したのは92名(48.9%)だった。DAS28-CRPは妊娠いずれの時期においても低値であった(DAS28-CRP in the third trimester:2.17(SD 0.73)。TNFiの使用と、低出生体重(<2500g)、緊急帝王切開、妊娠高血圧症候群、先天異常といったAdverse pregnancy outcomeとの関連性は認められなかった。また、TNFi使用群のほうが非使用群よりもSmall for gestational ageが少ない傾向があり(p= 0.05)、一方でLarge for gestational ageの有意な増加も認められなかった(p= 0.73)。平均出生体重はTNFi使用群のほうが173g高かった(3344g vs 3171g, p= 0.03)。多変量解析において出生体重と有意な関連性を認めた因子は、母体年齢(β−0.023, 95%CI -0.040 to -0.0065, p=0.007)、TNFi使用(β0.20, 95%CI 0.066 to 0.34, p=0.004)、糖尿病(β0.37, 95% CI 0.12 to 0.63, p=0.004)、在胎週数(β0.18, 95% CI 0.15 to 0.22, p<0.001)であった。
【結論】
本研究では、良好にコントロールされた関節リウマチ合併妊娠において、妊娠中のTNFiの使用はAdverse pregnancy outcomeを増加させず、また疾患活動性などの交絡因子を補正してもなお児の出生体重増加と関連する可能性が初めて示された。TNFiが出生体重に影響する機序や長期的な児への影響については今後の研究で検討する必要がある。
【参考文献】
1) Smeele HTW, Dolhain RJEM. Current perspectives on fertility, pregnancy and childbirth in patients with rheumatoid arthritis. Semin Arthritis Rheum 2019;49:S32–5.
2) Tsao NW, Rebic N, Lynd LD, et al. Maternal and neonatal outcomes associated with biologic exposure before and during pregnancy in women with inflammatory systemic diseases: a systematic review and meta-analysis of observational studies. Rheumatology 2020;59:1808–1817.
3) Smeele HT, Röder E, Wintjes HM, et al. Modern treatment approach results in low disease activity in 90% of pregnant rheumatoid arthritis patients: the PreCARA study. Ann Rheum Dis 2021;80:859–864.
(文責:河野 千慧)